RESEARCH

研究内容

Research Framework

先端機器と機械学習の融合的アプローチによる斬新な電子顕微鏡法の開発

走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡による微細組織・局所化学組成解析は新物質探索や高機能材料の研究開発を行うために欠かすことの出来ない分析手法として理工医薬の各分野で日常的に用いられています。
特に、物質や材料に熱・光・外力などを加えて、微細組織や機能/力学特性がどのように変化するかをリアルタイムで観察する「その場観察」法は、「現象が自分の目で見える」という電子顕微鏡の特徴を最大限に活用できる手法です。

この手法を用いることで、グラフェンやカーボンナノチューブのような新物質の機能特性、構造用金属やセラミックスの力学特性、地震発生メカニズムに繋がる岩石の組成変形挙動、さらには高分子の振動モードなどをナノメートルスケールで直接観察することが可能になります。われわれの研究グループは、特に透過電子顕微鏡のその場観察では、世界のトップグループと引けを取らない研究レベルを有しています。

さて、現在、米国や欧州では、その場観察手法をさらに進化させ、データサイエンスや計算科学的手法と融合させることで、未知の物質の探索や機能特性評価が可能となるOperando electron microscopyの開発が盛んに行われています。これは、日常生活に例えれば5年落ちのガラケーが最新型のスマホに変わるような劇的な変化を、材料解析、さらには物質や材料の研究開発に与えることが予想されます。

われわれの研究グループは、総合理工学研究院の波多聰教授グループや伊都キャンパスの超顕微鏡センターと日常的に連携し、Operando electron microscopyに代表される次世代の顕微鏡解析手法の確立とそれを用いた物理・化学現象の解明を目指し、同時に、これらの先端プロジェクトを通じて次世代の物理、材料研究に欠かすことの出来ない「微細組織 – 機能/力学特性の相関」を理解するための基礎を身につける研究教育を行っています。

ナノ構造体や物質に潜む新しい「光」の探索

電子線そのものが物質中の電子系を励起する外力であることから、電子顕微鏡の原子レベルの空間分解能を活かした電子状態の分光的解析ができます。吸収分光に相当する電子エネルギー損失分光(EELS)と発光を分析するカソードルミネセンス(CL)とを駆使して、われわれはナノ構造中の新奇な表面プラズモンモードの探索を推進しています。

近年の微細加工技術を用いれば、ナノ構造を周期的に配列した人工結晶をデザイン・作製することができ、固体物理のバンド理論に基づく電子状態制御をプラズモン伝播の制御に利用することができます。例えば、トポロジカル絶縁体やバレー分極といった結晶構造の幾何学に由来した性質は、光波をはじめあらゆる波に適用できる概念であり、これらを活用したナノスケールでの光伝播の新たな自由度の創出、物質系と組み合わせた新たな光機能デバイスの創出を目指しています。

また、電子線は電子顕微鏡に代表される「極細プローブ」としては有効に活用されていますが、物質との相互作用においては未知な側面がまだまだ多く残されています。例えばエキシトンを局所的かつ高密度に励起できるなど、ナノ凝縮系の物性探索にこれまでにないアプローチを生む可能性が見えてきています。このような新機能物質・材料の発掘へと繋がる電子線の励起源としての新たな側面の発見も本研究室の重要基礎課題です。

地球科学・環境問題に挑戦するナノテクノロジー in US

持続可能社会が社会・産業活動の主要なキーワードとなり、国連がSDGsの17目標を掲げるなど、国や地域を超えた問題意識の高まりを日々感じられる様になりました。一方で、除菌・消臭剤や3Dプリンターなど、我々の日常生活の一部となったナノテクノロジーから生み出されるナノ物質や材料は地球環境の中でどのような天然/人工ナノ物質と接して、それらがどのように地球に作用しているのでしょうか? 使用後のナノ物質は、都合の良いことに原子レベルにまで分解されて消え去ってしまうのでしょうか?無限希釈という概念がもはや地球規模でも成り立たなくなっている反面、地球規模でのナノ物質循環について理解しなければならないことが数多く残されています。米国をはじめとする研究機関における材料科学および地球・環境科学の立場から、先端解析手法が環境因子としてのナノ物質をどのように捉えるのか、研究事例の紹介を交えて検討します。